「事業の方向性は同じはずなのに、部署間の仲が悪い」
「デジタル部隊と営業部隊で、見ているKPIが噛み合わず、お互いに不信感を持っている」
「M&Aや組織統合を行ったが、企業文化が混ざり合わず、シナジーが生まれていない」
事業の多角化が進む現代において、こうした「組織の断絶」に頭を悩ませる経営者や事業責任者は少なくありません。特に、Webサービス(アプリ等)を展開する**「デジタル(テック)文化」の組織と、対面接客や店舗運営を行う「リアル(ハイタッチ)文化」**の組織を統合・連携させるフェーズでは、深刻な軋轢が生じがちです。
双方がそれぞれの「正義(KPI)」を追求するあまり、本来の目的であるはずの「顧客価値」が置き去りにされてしまう——。これを解決できる唯一の方法は、数合わせの組織図変更ではなく、両者が心から納得できる「共通のビジョン(北極星)」を打ち立てることです。
私たち**AAII(エーエーアイアイ)**は、多くの企業の「組織統合(PMI)」や「部門間連携」におけるブランディングを支援してきました。
本記事では、**「文化も評価指標も全く異なる2つの事業部(オンライン完結型サービス×対面相談型サービス)」を、完全オンライン環境下のワークショップを通じて一つに統合し、エンゲージメントと業績の両方を向上させた事例をもとに、「分断された組織をビジョンでつなぐ技術」**を余すところなく解説します。
第1章:なぜ、異なる文化を持つ組織の「統合」は失敗するのか
事例の詳細に入る前に、多くの組織統合や事業連携がうまくいかない「構造的な要因」について紐解きます。
「同じ会社の社員なのだから、話し合えばわかるはずだ」という性善説だけでは、この壁は越えられません。
1. 「部分最適のKPI」が相互不信を生む
典型的なケースとして、「Web集客部隊(Net)」と「対面営業部隊(Real)」の対立が挙げられます。
- Net部隊のKPI: 送客数、会員登録数(とにかく数を送ればミッション達成)
- Real部隊のKPI: 成約率、入会数、LTV(質の高い顧客でないと成約しない)
この指標の違いは、容易に感情的な対立へと発展します。
Net側は「せっかく送客したのに、Real側の営業力が弱いから決まらないのだ」と考え、Real側は「Net側が質の悪いリード(見込み客)ばかり送ってくるから、成約率が下がるのだ」と不満を募らせます。
双方が自分のKPIを達成しようとすればするほど、顧客体験(UX)は分断され、組織の一体感は損なわれていきます。この**「KPIの罠」**に気づかないまま、精神論で仲良くしようとしても無意味です。
2. 「見ている景色(顧客像)」のズレ
組織文化の違いは、日常業務における「顧客との接点」の違いから生まれます。
- デジタル(Net): ユーザーを「データ(UU、CVR)」として捉え、UI/UXによる効率的な課題解決を重視する。
- リアル(Real): ユーザーを「感情を持った個人」として捉え、対話による情緒的なサポートを重視する。
「より良いプロダクトを作りたい」というエンジニア気質の文化と、「目の前のお客様を幸せにしたい」というホスピタリティ重視の文化。
どちらも正しいのですが、前提となる言語や時間軸が異なるため、通訳なしに議論をすると「話が噛み合わない」状態が永遠に続きます。
3. 「トップダウンの統合」による白けムード
経営層が「シナジーを出せ」と号令をかけ、新しいスローガンを一方的に発表する。これが最も危険なアプローチです。
現場は日々、上記のような構造的な矛盾の中で戦っています。「現場の実情も知らないで、理想論ばかり押し付けないでほしい」という反発心が生まれれば、そのビジョンは壁に貼られただけの「お題目」と化します。
必要なのは、現場の葛藤をすべてテーブルの上に広げ、「私たちが目指すべき本当のゴール(北極星)はどこか?」を、現場自身が発見するプロセスなのです。
第2章:【事例研究】オンライン(Net)×オフライン(Real)組織の統合プロジェクト
ここからは、実際にAAIIが関わったある大手マッチングサービス企業の事例をもとに、具体的な解決プロセスを解説します。
【プロジェクトの背景】
この企業では、気軽に使える「アプリサービス(Net)」と、手厚いサポートを行う「対面型エージェントサービス(Real)」の2つの事業を展開していました。
経営戦略としては、NetからRealへの送客を強化し、顧客生涯価値(LTV)を最大化することを掲げていました。しかし、現場では先述のような「KPIの対立」と「文化の乖離」により、相互不信が深まっていました。
「戦略先行で数字は追っているが、意義・意味(Why)が腹落ちしていない」
「コロナ禍で完全リモートワークとなり、さらにお互いの顔が見えなくなっている」
この危機的な状況を打破するために始動したのが、両事業部を貫く新たな**「統一ビジョン・ミッション」**の策定プロジェクトでした。
成功のポイント①:策定体制の設計
通常、ビジョン策定は経営企画室や一部の選抜メンバーだけで行われがちです。しかし今回は、あえて**「社内×他部署の知見」**を巻き込む体制をとりました。
- 知見のリソース確保: ブランド策定の専門知識がない事務局メンバーだけで悩まず、社内の別ブランド(リブランディングに成功した事業部)の担当者や、社外のクリエイティブディレクター(私たちのような外部パートナー)を早期にアサインしました。
- 熱量の伝播: 事務局が「予算が少ない」「知見がない」と諦めるのではなく、「なぜこのプロジェクトが必要なのか」を熱意を持って周囲に相談し、協力者を巻き込んでいく「わらしべ長者」的な動きが奏功しました。
成功のポイント②:議論の出発点は「顧客」に置く
異なる文化を持つメンバーが議論をする際、「自分たちはどうありたいか?」から始めると、エゴのぶつかり合いになります。
今回のプロジェクトでは、徹底して**「私たちが向き合っている顧客(ユーザー)は誰なのか?」**という目線合わせからスタートしました。
【発見したインサイト】
- Net側: 「手軽に始めたい人」がターゲットだと思っていた。
- Real側: 「本気で成果を出したい人」がターゲットだと思っていた。
しかし、深掘りしていくと、どちらのユーザーも根底にある願いは**「将来をともに過ごすパートナーと出会いたい」「人生を豊かにしたい」という一点において共通していることがわかりました。
違いは「ニーズの段階(今すぐか、じっくりか)」や「解決手段」だけであり、「向き合っている顧客の人格は同じである」**という合意形成ができた瞬間、議論の空気が一変しました。
成功のポイント③:完全オンラインでの「ボトムアップ型」合意形成
コロナ禍のため、ワークショップは全てオンラインで行う必要がありました。しかし、オンライン会議は「声の大きい人の意見」が通りやすく、議論が深まりにくい欠点があります。
そこで導入したのが、徹底的な**「事前ワーク(宿題)× 非同期コミュニケーション」**の組み合わせです。
- 事前ワークの実施: ワークショップの前に、「あなたが考える顧客への価値は?」等の問いに対し、個人でじっくり考え、テキスト化してもらう。
- 事務局による構造化: 集まった意見を事務局が事前に読み込み、議論の対立軸や共通点を整理して「足場」を作っておく。
- 当日の対話: ワークショップ当日は、アイデア出しではなく「なぜそう書いたのか?」の背景共有と、合意形成に時間を割く。
これにより、拠点も職種も異なるメンバー全員が「自分の意見が反映されている」と感じられるプロセスを担保しました。さらに、100名以上の現場スタッフ(店舗のカウンセラー等)からもアンケートで生の声を収集。「現場の言葉」を拾い上げることで、抽象的なビジョンに手触り感を持たせました。
第3章:現場に「納得」を生み出すファシリテーション技術
どれほど立派なビジョンができても、それが「現場の腹落ち(納得)」につながらなければ意味がありません。AAIIでは、言葉を作るだけでなく、そのプロセス自体に**「チェンジ・マネジメント(変革管理)」**の手法を組み込みます。
今回の事例で特に重要だったのは、**「マッキンゼーの7Sフレームワーク」**を用いた組織診断と課題解決のアプローチでした。
1. ビジョン以外の「組織の歪み」を直視する
「ビジョンがないから一体感がない」というのは、真実の一側面に過ぎません。AAIIでは、組織を以下の7つの要素(7S)で分析し、ビジョン以外の阻害要因を洗い出しました。
- Shared Value(共通の価値観): ビジョンの欠落。
- Structure(組織構造): 組織図が分断されている。
- System(システム・制度): 会議体や評価指標が別々である。
- Staff(人材): お互いの顔や名前、人となりを知らない。
- Style(企業風土): 合理性重視 vs 情緒重視。
- Skill(スキル): 必要な能力セットの違い。
- Strategy(戦略): 戦略はあるが、目的の共有が不足。
この分析により、「ビジョンを作れば解決する」のではなく、**「ビジョンを策定すると同時に、お互いを知る(Staff/Systemの改善)活動が必要だ」**ということが明確になりました。
2. 「相互理解コンテンツ」の制作
「あっちの部署は融通がきかない」という不満は、相手の業務内容を知らない「無知」から生じます。
そこで、浸透施策の一環として以下のようなコンテンツを作成し、社内報やキックオフイベントで共有しました。
- 「MC(カウンセラー)の一日」: リアル店舗のスタッフがどれだけ親身に、泥臭く顧客に寄り添っているかを動画化。Net側の開発メンバーに見せる。
- 「Net開発の裏側」: アプリの裏側で、エンジニアがどれほど顧客の利便性を考え、緻密な改修を行っているかを可視化。Real側のスタッフに見せる。
これにより、「違うこと」が「敵対」ではなく「リスペクト」へと変わりました。 「彼らが頑張ってくれているから、私たちの仕事が成り立つんだ」という信頼関係の土壌があって初めて、共通のビジョンが根付くのです。
第4章:完成したVMVと、その後の劇的な変化
数ヶ月にわたる激論と相互理解の末、ついに2つの組織を統合するビジョンとミッションが完成しました。
【Vision(抜粋・概念)】
サービス名ではなく、その先にある「人生の幸福」に焦点を当てる。
「出会い」を提供するだけでなく、その先にある「二人の幸せが長く続く世界」を共に創る。
【Mission(抜粋・概念)】
「効率(Netの強み)」と「安心・寄り添い(Realの強み)」を融合させる。
あらゆる人に、その人らしい魅力を引き出し、機会を最大化する。
完成した言葉は、決して経営者が机上の空論で書いたものではなく、NetとReal双方の現場から吸い上げられた**「魂の言葉」の結晶**でした。
定量・定性的な成果
このプロジェクトの効果は、驚くべきスピードで現れました。
- ビジョン共感度 99%: 策定後のアンケートで、従業員のほぼ全員が「このビジョンに共感できる」と回答。
- 組織間の距離感の短縮: 「以前より相手チームとの距離が縮まった」と答えた社員が95%以上。
- エンゲージメントスコア向上: 全社サーベイにおいて、「事業戦略への共感」や「経営方針への信頼」のスコアが有意に向上。
- 行動変容(意識の変化):
- Net側メンバー:「KPI達成のためだけでなく、その先の顧客の人生を考えてUIを設計するようになった」
- Real側メンバー:「Web経由の顧客への苦手意識がなくなり、『私たちがバトンを受け取って幸せにするんだ』という前向きな責任感が生まれた」
また、経営的な成果としても、単なる送客数の増加だけでなく、サービス全体の**「LTV(顧客生涯価値)」の向上**に向けた建設的な議論が、現場レベルで自発的に行われるようになりました。
第5章:AAII流・「分断」を「統合」に変えるメソッド
AAIIが提供するブランド開発支援は、綺麗な言葉を作って納品するだけのサービスではありません。私たちは、**「言葉づくり」を通じた「組織開発(Organizational Development)」**を提供しています。
1. 異なる文化を「翻訳」する介入スキル
Net(デジタル)とReal(アナログ)のように、言語プロトコルの異なる組織をつなぐには、高度な「翻訳者」の存在が必要です。
AAIIのコンサルタント・クリエイティブディレクターは、双方の文脈を深く理解し、**「Aさんが言っている〇〇は、Bさんの文脈で言うと××ということですよね?」**と通訳することで、不毛な対立を建設的なシナジーへと昇華させます。
2. 「納得解」を生み出すプロセス設計
正解のない問いに対して、全員が「これでいこう」と合意するには、魔法のような説得ではなく、泥臭い「納得のプロセス」が必要です。
今回紹介した**「事前ワーク」「7S分析による阻害要因の排除」「現場100名の声の可視化」**など、企業の状況に合わせた最適なワークショップ・プログラムをオーダーメイドで設計します。
3. 「運用」まで見据えた言葉の強度
作ったビジョンが数年で陳腐化しないよう、**「社会的な意義(Purpose)」と「現場の行動指針(Values)」**を接続させるクリエイティブを提供します。
経営者にとっては「投資判断の基準」となり、現場社員にとっては「迷った時の拠り所」となる。そのような強靭な言葉の開発をお約束します。
結論:組織の壁は、強い「言葉」でしか壊せない
もしあなたの会社で、部署間のセクショナリズムや、戦略と現場の意識の乖離が起きているなら、それは**「何のために我々はここにいるのか?」という共通の物語**が不在だからかもしれません。
システムを統合しても、オフィスを統合しても、人の心までは統合できません。
人の心をつなぎ、組織を一つにするのは、いつの時代も、嘘のない本質的な**「言葉(ビジョン)」**の力です。
特に、DX推進やOMO戦略、M&Aによって、異質な文化を混ぜ合わせる必要があるフェーズにある企業様。
「文化の違い」を嘆くのではなく、その違いをエネルギーに変えるためのプロジェクトを始めませんか?
AAIIは、混沌とした組織の現状を整理し、未来に向けた希望の旗印(VMV)を、皆さんと共に汗をかいて作り上げるパートナーです。
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