事業が拡大し、ホールディングス体制への移行やM&A(買収・合併)によるグループ経営に乗り出す企業が増えています。しかし、財務やシステムの統合はスムーズに進んでも、「人の心(カルチャー)」の統合に失敗し、優秀な人材が大量に離脱してしまうケースが後を絶ちません。

今回は、AAIIのクリエイティブディレクター・フジヰにインタビューを実施。グループ経営において、異なる歴史を持つ組織同士の衝突(ハレーション)を防ぎ、一つの強固なチームへと統合するための「理念の再構築」について話を聞きました。

M&Aの成否は「言葉の統合」にかかっている

AAII編集部: グループ会社が増えたり、M&Aを行ったりした際、組織の統合で最も大きな壁となるのは何でしょうか。

フジヰ: 間違いなく「カルチャーの衝突」です。

財務諸表や社内システムは物理的に統合できても、人の心はそう簡単には統合できません。特にM&Aで買収された側や、吸収合併された側の社員は、「これまでの自分たちの歴史ややり方を否定されるのではないか」という強烈な不安と反発心を抱えています。

AAII編集部: その状態で、親会社の理念を押し付けるとどうなるのでしょうか。

フジヰ: 最悪のハレーションが起きます。「今日から我々グループの理念はこれだ、このルールに従え」と、一方の言葉をそのまま押し付ければ、もう一方の誇りはへし折られ、中核を担っていた優秀な人材から順番に辞めていきます。

グループ経営における理念とは、組織を「支配するためのルール」であってはなりません。異なる歴史を持った組織同士が、互いを尊重し合いながら同じ未来を目指すための「新しい旗印」として、言葉を統合(アップデート)し直す必要があるのです。

世の中の実例:サントリーが海を越えて伝えた「やってみなはれ」

AAII編集部: 異なるカルチャーを、理念の力で見事に統合した世の中の事例はありますか。

フジヰ: 非常に有名な実例として、サントリーによる米国の蒸留酒メーカー・ビーム社の買収(現在のビームサントリーの誕生)が挙げられます。

巨大な米国企業を買収した際、サントリーは日本的な細かい管理手法を押し付けることはしませんでした。彼らが徹底的にこだわったのは、サントリーのDNAである「やってみなはれ(Yatte Minahare)」という理念(スピリット)の共有と統合です。

AAII編集部: 日本の言葉が、そのまま海外の企業に受け入れられたのでしょうか。

フジヰ: ただ直訳して押し付けたわけではありません。ビーム社にも、創業から200年以上続く「フロンティア精神」という独自のカルチャーがありました。サントリーの経営陣は、このビーム社の歴史に敬意を払い、「彼らのフロンティア精神と、我々の『やってみなはれ』は、表現は違えど根底の魂は同じだ」という文脈(コンテキスト)を丁寧に紡ぎ合わせたのです。

結果として「Yatte Minahare – Go for it!」という言葉は、海を越えて異なる2つの巨大組織を繋ぐ共通言語となり、統合を大成功へと導きました。

実例:合併による「何屋かわからない状態」を繋ぐ上位概念

AAII編集部: フジヰさんご自身の実体験の中で、異なる組織やカルチャーを言葉の力で繋ぎ合わせた事例はありますか。

フジヰ: 私が過去に伴走した、ある大手都市開発コンサルティング企業のプロジェクトがまさにそれにあたります。

実はこの組織は、元々「コンサルティング会社」と「システム会社」が合併して生まれた企業でした。その結果、どういう事態に陥っていたか。コンサルの文化とシステム開発の文化という、全く異なる専門性を持つ2社がくっついたことで、社内に「結局、我々は何屋なのか?」というアイデンティティの喪失と分断が起きていたのです。

AAII編集部: 合併による混乱ですね。そこからどうやって組織を統合したのでしょうか。

フジヰ: 私たちは、両者の専門性や文化の違いを「無理に一つに統一する」ことをやめました。その代わり、両者のさらに上にある「上位概念」を設計したのです。それが「いいまちつくろう」という共通言語です。

AAII編集部: 非常にシンプルですね。

フジヰ: はい。コンサルの緻密なノウハウも、システムの高度な技術も、すべてはこの「いいまち」を創るための手段に過ぎない。各部門の戦い方やカルチャー(アイデンティティ)はそのまま残しつつ、向かうべき頂上(目的)だけを、誰もが直感的に分かるキャッチーな言葉で強烈に結びつけたのです。

手段が違う者同士でも、目的という「意味の統合」さえできれば、最強の共創チームになれます。これが、組織統合における言葉の力です。

AAII 企業理念・VMV開発支援:支配ではなく「共創」のインフラを創る

グループ企業の統合やM&Aにおいて、経営者が真っ先に取り組むべきは、会計システムの見直しではありません。両社の社員が「このグループになれば、もっと面白い未来が創れる」と信じられる、新しい「意味の統合」です。

AAIIでは、親会社からの一方的な言葉の押し付けや、無難な言葉でお茶を濁すような策定は行いません。統合される各組織の泥臭い歴史や誇りを徹底的にヒアリングし、互いのDNAを掛け合わせた「強靭なグループ理念」へと翻訳します。

組織のハレーションを防ぎ、異なるカルチャーが「共創」し始めるための本物の共通言語を、共に創り上げましょう。

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