自社の理念やVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)を新しく策定・見直しする際、多くのプロジェクトチームが最初に行うのが「有名な経営理念のベンチマーク(他社事例の研究)」です。

Apple、Google、トヨタ、京セラなど、卓越した成果を出し続けている有名企業の言葉を並べ、「うちもこんなかっこいい理念にしたい」「このエッセンスを取り入れよう」と議論を始める。しかし、実はこの「名言のつまみ食い」こそが、自社の理念を誰の心にも響かない「フランケンシュタイン(継ぎ接ぎの怪物)」にしてしまう最大の要因なのです。

今回は、AAIIのクリエイティブディレクター・フジヰにインタビューを実施。有名企業の理念を真似ることの致命的な罠と、外ではなく「自社の内側」から本物の言葉を削り出すためのアプローチについて、深く話を聞きました。

有名な経営理念の「言葉の表面」だけを切り取る危険性

AAII編集部: 理念を作る際、成功している有名企業の言葉を参考にすること自体は、効率的なアプローチのように思えます。何が危険なのでしょうか。

フジヰ: 参考にすること自体は悪くありません。しかし、多くの企業が犯してしまう間違いは、有名企業の理念の「完成された表面的な言葉(アウトプット)」だけを切り取って、自社に移植しようとすることです。

経営理念というものは、植物の「木」によく似ています。皆さんが見ている有名な言葉は、地上で美しく色づいた「葉っぱ」の部分です。しかし、その葉っぱを支えているのは、地中深くにある「創業者の泥臭い原体験」や「過去の大きな失敗」「その企業独自の事業構造」という強靭な「根っこ(コンテキスト)」なのです。

AAII編集部: 背景にある文脈が重要なのですね。

フジヰ: はい。根っこが全く違うのに、美しい葉っぱ(言葉)だけをちぎってきて自社の枯れ木にボンドで貼り付けても、絶対に根付きません。現場の社員から見れば、「社長がまたどこかの本で読んできた、うちの会社とは無関係なきれいごとを言い始めたぞ」と冷められるのがオチです。他社の言葉を真似た瞬間に、理念は組織を動かす力を完全に失うのです。

世の中の実例:京セラフィロソフィは「アメーバ経営」とセットである

AAII編集部: 有名な理念の「言葉だけ」を真似て失敗してしまう、分かりやすい構造の例はありますか。

フジヰ: 日本において最もベンチマークされやすく、かつ「表面だけ真似て大失敗する」典型例が、稲盛和夫氏が提唱した「京セラフィロソフィ」です。

彼らのフィロソフィには「人間として何が正しいかで判断する」「大家族主義で経営する」といった、非常に道徳的で美しい言葉が並んでいます。これを読んで感動した多くの経営者が、そのまま自社の理念として「人間としての正しさ」や「家族的経営」を掲げます。

AAII編集部: 素晴らしい言葉だからこそ、取り入れたくなりますね。

フジヰ: しかし、京セラがあれほど強いのは、その美しい道徳(フィロソフィ)の裏側に、「アメーバ経営」という極めて厳格で泥臭い、部門別の独立採算制度(ビジネスの数字の仕組み)がセットで存在しているからです。

アメーバ経営という「徹底的に数字を追わせる厳しい環境」があるからこそ、組織がエゴに走らないための強烈なブレーキとして「人間としての正しさ」という道徳が機能するのです。この「数字と道徳の両輪の構造」を理解せず、ただ「家族のように〜」という優しい言葉だけを真似すれば、組織は単なる甘え合いの集団になり、あっという間に崩壊します。

実例:リッツ・カールトンを真似ず、自社の「怒り」を言語化する

AAII編集部: フジヰさんご自身のプロジェクトにおいて、「他社の真似」を脱却して独自の言葉を削り出した実例を教えてください。

フジヰ: 私が立ち上げから伴走している、ウエディングプロデュース会社のVMV策定での事例です。

ウエディングやホスピタリティ産業において理念を作る際、必ずと言っていいほどベンチマークされるのが、ザ・リッツ・カールトンの「クレド(信条)」です。「私たちは紳士淑女をおもてなしする紳士淑女です」という、あまりにも有名な言葉ですね。

AAII編集部: サービス業のお手本として、よく引用されますね。

フジヰ: 当初は、このプロジェクトでも「リッツ・カールトンのような、洗練されたおもてなしの言葉が必要ではないか」という空気が少しありました。しかし、私はそれを完全に止めました。なぜなら、彼ら(ウエディングプロデュース会社)の強みの源泉は、洗練されたスマートな接客などではなく、もっと泥臭く熱いものだったからです。

AAII編集部: 彼ら独自の強みとは何だったのでしょうか。

フジヰ: 既存の結婚式業界に蔓延する「パッケージ化された大量生産の結婚式」に対する、強烈な「怒り」と「アンチテーゼ」です。

彼らは、新郎新婦の人生に深く入り込み、時にはスマートさを捨ててでも、本質的な価値観を揺さぶるような結婚式を創りたかった。だからこそ、他所から借りてきた「洗練されたおもてなしの言葉」ではなく、「結婚式を、人生の目的を再確認する本質的なライフイベントへと昇華させる」という、彼ら自身の腹の底から湧き出る独自のスタンスを言語化したのです。

結果として、それが他のどの結婚式場とも違う、彼らだけの圧倒的なアイデンティティ(ブランド)になりました。

AAII流:有名企業の真似を脱却し、「自社の言葉」を発掘する3ステップ

AAII編集部: 他社の真似をやめ、自社の内側から言葉を発掘するためには、どうすればよいでしょうか。

フジヰ: 外部の成功事例(他社のサイト)を閉じて、以下の3つのステップで徹底的に「自社の内側」と向き合います。

  1. 創業者の「怒り」と「原体験」を掘り起こす なぜ、この事業を始めたのか。世の中のどんな不条理や業界の常識に対して「おかしい」と怒りを感じていたのか。最もエネルギーの高い「原点」に立ち返ります。
  2. 自社の「暗黙のルール(タブー)」を言語化する 優れた企業には、明文化されていなくとも「うちの会社では、こういうダサい売り方は絶対にしない」という現場の美学(タブー)が存在します。これを言葉にすることで、自社のエッジが浮き彫りになります。
  3. 借り物の言葉を「自分たちの体温」に翻訳する 「誠実」「挑戦」「貢献」といった辞書の言葉を捨て、社内で普段飛び交っている生々しい言葉や、泥臭い動詞を使って、スタンスを再定義します。

このプロセスを経ることで、どこかの有名企業の劣化コピーではない、あなたの会社だけの血が通った理念が完成します。

AAII 企業理念・VMV開発支援:他社の真似を終わらせ、自社のDNAを言語化する

有名な経営理念をまとめた本を何十冊読んでも、自社の組織を動かす正解は見つかりません。正解は、他社の成功事例の中ではなく、あなたの会社の歴史と、現場で戦う社員たちの泥臭い葛藤の中にしか存在しないからです。

AAIIでは、他社の成功モデルを当てはめるようなテンプレート型のコンサルティングは一切行いません。経営陣の原体験から現場のリアルな体温までを深くヒアリングし、あなたの企業のDNAを、最も強く、最も鋭利な「言葉という武器」へとクリエイティブに翻訳します。

借り物の言葉で組織を飾るのをやめ、自社にしか掲げられない本物の旗を共に創り上げましょう。

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