経営理念やバリュー(行動指針)を作ったものの、現場に全く浸透しない。そんな悩みを抱える企業は少なくありません。その原因を探ると、「言葉をルールとして押し付けているだけ」というケースが非常に多く見られます。

今回は、AAIIのクリエイティブディレクター・フジヰにインタビューを実施。フジヰ自身が過去に手がけた、大手婚活サービスの生々しいプロジェクト事例を交えながら、組織の壁を越えて言葉が浸透していく「本当のプロセス」について話を聞きました。

「ルール」ではなく、現場の「マインドセット」を変える言葉

AAII編集部: せっかく作った理念やバリューが現場に浸透しないのは、何が原因なのでしょうか。

フジヰ: バリュー(行動指針)を、単なる「ルール」や「禁止事項」として現場に下ろしてしまっているからです。

経営レイヤーのミッションや戦略であれば、「自社は何をやらないか」を定義することが重要です。しかし、それをそのまま現場の行動指針として押し付けてしまうと、社員は窮屈なルールに縛られているようにしか感じません。

AAII編集部: では、バリューが本当に担うべき役割とは何でしょうか。

フジヰ: 現場の社員の「毎日の仕事への向き合い方」や「マインドセット」を変えることです。言葉によって、日々の業務に新しい意味づけをしてあげること。これが浸透の第一歩になります。

事例:大手婚活サービス「縁を結ぶ発明者になろう」

AAII編集部: マインドセットを変える言葉とは、具体的にどのようなものでしょうか。

フジヰ: 私が過去に担当した大手婚活サービスの事例をお話しします。当時の現場は、日々の業務が完全に「フォーマット作業」に陥ってしまっているという課題を抱えていました。

AAII編集部: フォーマット作業、ですか。

フジヰ: はい。毎日多くのお客様のデータを処理し、マッチングを行う中で、どうしても作業がルーティン化してしまっていたのです。しかし、婚活において「ひとりとして同じお客様」はいません。それぞれに異なる背景や想いがあります。

そこで私たちは、現場の行動指針として「縁を結ぶ発明者になろう」という言葉を掲げました。

AAII編集部: 作業者ではなく、発明者。

フジヰ: そうです。「あなたはただデータを処理する作業者ではない。ひとりひとり違うお客様に対して、どうすればご縁を結べるのかを毎日ゼロから考え、発明する人間なんだ」というアイデンティティの再定義です。この言葉一つで、現場の仕事への向き合い方が「処理」から「クリエイティブな課題解決」へと大きく転換しました。

組織の分断(ハレーション)を繋ぐ言葉の力

AAII編集部: 素晴らしい転換ですね。他にも組織的な課題はあったのでしょうか。

フジヰ: 実は当時、組織内でもう一つ大きなハレーション(摩擦)が起きていました。アプリ(ネット)で集客・送客する部門と、実際に店舗でお客様と向き合う結婚相談所(エージェント)の部門での対立です。

アプリ側は「せっかく送客したのに、相談所は全然成約を決めないじゃないか」と不満を持ち、相談所側は「アプリは成約しづらい客ばかり送り込んでくる」と反発していました。

AAII編集部: 典型的な部門間の壁ですね。ここでも言葉が機能したのですか。

フジヰ: はい。「縁を結ぶ発明者になろう」というバリューは、この分断を繋ぐ役割も果たしました。

アプリのUIを改善することも、店舗でのお客様への声かけを工夫することも、アプローチは違えど、根本はどちらも「縁を結ぶための発明」です。この言葉が共通言語になったことで、お互いを「敵」ではなく「同じ発明に挑むチーム」として認識し直す土壌が生まれました。

経営がやるべきこと、現場に任せることの「線引き」

AAII編集部: 言葉が現場のマンネリも、部門間の対立も解決したのですね。

フジヰ: ただ、ここで絶対に誤解してはいけない重要なポイントがあります。言葉を作っただけで、すべてが魔法のように解決したわけではありません。

当時の社長が優れていたのは、「行動指針(バリュー)に任せるところ」と「経営としてやるべきところ」の線引きを、極めてシビアに行っていた点です。

AAII編集部: どういうことでしょうか。

フジヰ: たとえば、アプリと相談所の連携不足といった「構造的な問題」や「KPIの設定ミス」は、現場のマインドセット(発明者になろう)だけで解決してはいけません。それは経営陣が責任を持って仕組みを変えるべき領域です。

経営陣は構造や制度というハード面を整える責任を果たす。その上で、最後のお客様と向き合う「人間臭い部分」の熱量や工夫を、バリューという言葉に託す。この経営と現場の明確な線引きと信頼関係があったからこそ、「発明者になろう」という言葉が白けることなく、組織の隅々まで浸透していったのです。

AAII 企業理念・VMV開発支援:現場のリアルから言葉を紡ぐ

経営理念やバリューを浸透させるためには、きれいな言葉を上から降らせるだけでは不十分です。現場が抱えるマンネリ、部門間の対立、そして経営と現場の役割分担。そうした泥臭いリアルな課題と真正面から向き合わなければ、言葉は決して動き出しません。

AAIIでは、机上の空論でバリューを作ることはありません。現場で何が起きていて、社員が何に葛藤しているのか。その生々しい実態をすくい上げ、日々の仕事に誇りと新しい意味をもたらす「機能する言葉」へと翻訳します。

組織の分断を繋ぎ、現場が自走し始めるための本物の言葉を、共に創り上げましょう。

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