自社の企業理念やVMVを見直す際、必ずと言っていいほど行われるのが「他社の事例研究」です。「企業理念 事例」と検索すれば、有名企業の素晴らしい言葉がいくつも並んでいます。しかし、それを参考に自社の理念を作ったはずが、なぜか社内に浸透せず形骸化してしまうケースが後を絶ちません。
今回は、AAIIのクリエイティブディレクター・フジヰにインタビューを実施。業界別の具体的な事例を紐解きながら、ただの「美しいスローガン」で終わる企業と、言葉が「組織を動かす武器」として機能している企業の決定的な違いについて話を聞きました。
なぜ他社の事例を真似ても「自社の理念」にはならないのか
AAII編集部: 企業理念を作る際、他社の優れた事例を参考にすること自体は間違っているのでしょうか。
フジヰ: 参考にして分析すること自体は非常に重要です。しかし、多くの企業が陥る罠は、他社の理念の「表面的な言葉の響き」や「言い回しの美しさ」だけを抽出して、自社に当てはめようとしてしまうことです。
優れた企業理念というものは、その言葉単体で成立しているわけではありません。その企業の創業の歴史、当時の社会に対する強烈なアンチテーゼ、そして泥臭い事業モデルという「コンテキスト(文脈)」が背後にあるからこそ、強い説得力を持つのです。
AAII編集部: 文脈のない言葉は、ただの飾りになってしまうということですね。
フジヰ: はい。たとえば「世界を豊かにする」という同じ言葉でも、IT企業が言うのと、農業法人が言うのでは、現場での具体的なアクション(バリュー)が全く異なります。
他社の事例を見る時に本当に学ぶべきなのは、言葉そのものではなく「彼らは自社の業界特有の課題を、どういう切り口で言語化し、社会への意味に変換したのか」という『構造』です。ここからは、業界別にその構造を見ていきましょう。
IT・人材業界の事例:変化の激しい市場で「変わらない軸」を打つ
AAII編集部: まずは、ITや人材サービス業界の事例について教えてください。
フジヰ: この業界はビジネスモデルやテクノロジーの陳腐化が非常に激しいのが特徴です。そのため、「〇〇の技術で〜」といった手段を理念に入れてしまうと、数年後には時代遅れになってしまいます。
優れた事例として、Googleの「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」というミッションが挙げられます。彼らは検索エンジンから始まり、今やAIやクラウドなど多岐にわたる事業を展開していますが、この理念は創業から全くブレていません。手段(テクノロジー)ではなく、社会に対する普遍的な「果たすべき役割」を定義しているからです。
AAII編集部: フジヰさんが過去に担当された人材業界の事例はいかがでしょうか。
フジヰ: 私が担当した大手人材サービス企業のプロジェクトでも、同じ構造を意識しました。「AIによる高精度なマッチング」といった機能的な手段を語るのではなく、今の世の中の「昭和的な労働の価値観」を倒すべき敵と定め、個人と企業の新しい「共創」を生み出すという普遍的な役割を言語化しました。
変化の激しい業界だからこそ、時代の波に流されない強烈で太い「社会的な存在意義」を言葉の芯に打つことが、機能する理念の共通点です。
ウエディング・サービス業界の事例:手垢のついた「笑顔」を捨てる
AAII編集部: 続いて、ウエディングやサービス業界の事例をお願いします。
フジヰ: この業界はホスピタリティが商品そのものであるため、理念を作ろうとすると、どうしても「お客様の最高の笑顔のために」「感動を創造する」といった、手垢のついたきれいな言葉に収束しがちです。
しかし、これらの言葉はどの競合他社でも言えてしまうため、現場の判断基準としては全く機能しません。
AAII編集部: では、どうすれば機能する言葉になるのでしょうか。
フジヰ: 「やらないこと」を強烈に定義することです。私が立ち上げからブランディングを支援しているウエディングプロデュース会社の事例をお話しします。
私たちは「笑顔」や「感動」という言葉を意図的に排除しました。そして、既存の結婚式場の「パッケージ化された大量生産型の結婚式」を業界の歪みと捉え、それとは真逆の「お二人の人生に徹底的に寄り添い、価値観をアップデートする本質的なプロデュース」に特化することを決断しました。
これを言語化したことで、現場のプランナーは「この演出はただのテンプレになっていないか?お二人の本質的な価値観を表現できているか?」と、常に自問自答できるようになりました。抽象的な感情表現を捨て、具体的なスタンス(戦い方)を言葉にすることが、サービス業における機能する理念の条件です。
製造業・メーカーの事例:機能的価値を「社会への意味」に変換する
AAII編集部: 最後に、製造業やメーカーの事例を教えてください。
フジヰ: 製造業は「良いモノを作れば売れる」という文化が根強いため、理念が「高品質な製品の提供」「技術力の追求」といった、スペック(機能的価値)の羅列になってしまうケースが散見されます。
しかし、技術がコモディティ化した現代において、スペックだけで人の心は動きません。ここで学ぶべきは、ソニーの設立趣意書にある「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」や、ホンダの「技術で人を幸せにする」といった事例です。
AAII編集部: どちらも、単なるモノづくり以上の意味を持っていますね。
フジヰ: その通りです。彼らは「何をどう作るか」という手段の前に、「何のためにそれを作るのか」「どんな組織でありたいのか」という『意味』を強烈に言語化しています。
BtoBの部品メーカーであっても同じです。「精密なネジを作る会社」ではなく、「そのネジが使われることで、社会のインフラの何がどう安全になるのか」という社会的な意味へと変換する。自社の技術(機能)を、社会課題の解決(意味)に接続する翻訳力こそが、製造業における強い理念の共通点です。
AAII 企業理念・VMV開発支援:事例の表面ではなく、本質を自社に実装する
他社の事例をいくら集めても、そこにあるのは「他社の答え」に過ぎません。企業理念とは、自社の泥臭い歴史や、経営者の熱量、そして現場の葛藤の中からしか生まれないものです。
AAIIでは、他社の成功事例をテンプレートにして当てはめるような手抜きのコンサルティングは一切行いません。事業のフェーズ、業界特有の商慣習、そして倒すべき社会の古い価値観。それらを徹底的に分析し、事例の表面的な言葉ではなく、言葉が機能するための「構造」そのものをあなたの会社に実装します。
プロのアートディレクターとコピーライターの視点で、自社にしか語れない、組織を動かす本物の理念を共に創り上げましょう。
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