事業のグローバル展開や、多様な国籍のメンバーを採用する組織拡大のフェーズにおいて、自社のミッションやバリューを英語化する企業が増えています。

しかし、日本語で作られた素晴らしい理念をそのまま直訳し、結果として「ネイティブから見ると不自然な表現になっている」「日本語にあった泥臭い熱量が完全に消え去っている」というケースが後を絶ちません。

今回は、AAIIのクリエイティブディレクター・フジヰにインタビューを実施。企業理念を英語にする際によくある失敗と、単なる翻訳を超えて「経営の意志」をグローバルで通用する言葉へと変換するためのアプローチについて話を聞きました。

辞書通りの「直訳」が、理念の熱量を殺してしまう

AAII編集部: 経営理念やバリューを英語にする際、多くの企業が陥ってしまう落とし穴とは何でしょうか。

フジヰ: 最大の落とし穴は、日本語の文章をそのまま辞書的な意味で「直訳」してしまうことです。

企業理念というものは、日常会話や契約書とは異なります。その言葉の背景には、経営者の泥臭い原体験や、日本の特定の業界に対するアンチテーゼといった、極めて文脈(コンテキスト)に依存した熱量が込められています。それを単語単位で直訳してしまうと、その熱量が一瞬にして冷え切ってしまうのです。

AAII編集部: 熱量が冷める、とは具体的にどういうことでしょうか。

フジヰ: たとえば、日本語で「お客様に寄り添う誠実なモノづくり」という理念があったとします。これを直訳して「Sincere manufacturing close to customers」としたところで、英語圏の人間から見れば「ただの当たり前の業務説明」にしか聞こえません。

日本語特有の「寄り添う」という行間にあるホスピタリティや、「誠実」という言葉に込められた企業としての誇りが、直訳のプロセスで完全に抜け落ちてしまうのです。

言葉ではなく「社会へのスタンス」を翻訳する

AAII編集部: では、直訳せずにどうやって英語化すればよいのでしょうか。

フジヰ: 翻訳すべきなのは「表面的な言葉」ではなく、その言葉の奥にある「社会に対するスタンス(意志)」です。これを業界用語では「トランスクリエーション(翻訳+クリエイティブ)」と呼んだりします。

先ほどの「誠実なモノづくり」の例で言えば、経営陣に「なぜ誠実である必要があるのか」「不誠実なモノづくりが横行する社会に対して、どういう怒りを持っているのか」を改めて問い直します。

AAII編集部: 日本語の理念を作った時と同じように、もう一度スタンスを掘り下げるのですね。

フジヰ: はい。もしその本質が「絶対に妥協せず、正しいことだけを貫く」というスタンスであれば、英語にする時は「Sincerity」のような名詞ではなく、「Do the right thing(正しいことをせよ)」といった、より意志を感じる強い動詞のアクションに変換する方が、現場の心には圧倒的に響きます。

直訳を捨てる勇気を持ち、自分たちのスタンスを一番強く表現できる英語のコピーを「ゼロから書き直す」という意識が不可欠です。

インナーブランディングで機能する「動詞」の力

AAII編集部: 現場の行動指針(バリュー)を英語にする際、特に意識すべきことはありますか。

フジヰ: バリューの英語化において最も重要なのは、「シンプルで強い動詞を使うこと」です。

バリューの役割は、前回の記事でもお話しした通り、現場の社員の「マインドセット」を変えることです。そのためには、日常会話や社内チャットで息をするように使える短さと軽快さが必要になります。

AAII編集部: 長く複雑な英文では、日常会話で使えませんね。

フジヰ: その通りです。だからこそ、「We will always strive to…」のような冗長な構文は排除し、アクションを直感的に促す動詞から始めるべきです。

「Think Big(スケール大きく考えよう)」「Move Fast(素早く動こう)」といった、たった2語〜3語のフレーズであっても、その言葉の裏に「なぜ私たちがそうすべきなのか」という事業の文脈がしっかりと紐づいていれば、立派なバリューとして機能します。むしろ、ノンネイティブの社員も多く在籍するグローバル環境においては、中学生でも一瞬で理解できるレベルにまで言葉を削ぎ落とすことこそが、最も高度なクリエイティブと言えます。

事例:日本独自の概念をどうグローバルに伝えるか

AAII編集部: 日本独自の商慣習や文化に根ざした理念を、海外に伝えるのが難しいという声も聞きます。

フジヰ: それも直訳の罠の一つですね。たとえば「おもてなし」や「三方よし」といった概念は、そのままローマ字で「Omotenashi」と書いても、背景の文脈を知らない海外のメンバーには本質的な意味(マインドセット)が伝わりません。

私が過去に携わったプロジェクトでも、日本特有の「阿吽の呼吸」や「空気を読む」といった暗黙の了解をベースにした現場のチームワークを、どう海外拠点に浸透させるかが課題になったことがあります。

AAII編集部: どう解決したのでしょうか。

フジヰ: 日本の「空気を読む」という言葉を直訳するのではなく、その行動がもたらす本質的な価値を言語化しました。つまり、言葉に頼らなくても相手の意図を汲み取るという行為は、極限まで「相手への想像力を働かせる」ということです。

そこで、現場のマインドセットを「Imagine Beyond(想像を越えろ)」といった、より普遍的でアクティブな英語表現へと再定義しました。日本的な文化を押し付けるのではなく、その文化の「強み」を抽出し、世界中の誰が聞いても行動に移せる言葉へと変換する。これが、グローバルで機能する理念の作り方です。

AAII 企業理念・VMV開発支援:海を越えて組織を動かす言葉を創る

企業理念やVMVの英語化は、単なる語学のテストではありません。それは、自社の事業のDNAと社会に対する強烈な意志を、言語の壁を越えて世界に響かせるためのクリエイティブな挑戦です。

AAIIでは、辞書を引いて終わるような直訳の翻訳作業は行いません。経営者の頭の中にある熱量や、組織の底に流れる泥臭い文脈を徹底的に読み解き、それを英語圏の文化やニュアンスに合わせて、最も強く、最も美しく伝わる「コピー」として再構築します。

国籍や文化の違いを越え、すべてのメンバーが同じ未来を信じて自走し始める。グローバルで事業を勝たせるための本物の言葉を、共に創り上げましょう。

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