会社を立ち上げる際、あるいは組織が拡大し新たなフェーズを迎える際、多くの経営者が「強い企業理念を作りたい」と考えます。しかし、いざ真っ白な紙を前にすると、どこから手をつければいいのか分からず、他社の事例や辞書にあるような立派な単語を並べてしまうケースが少なくありません。

今回は、AAIIのクリエイティブディレクター・フジヰにインタビューを実施。表面的な言葉選びに終始せず、経営者の奥底にある熱量を、組織を動かし事業を勝たせる「強靭な言葉」へと翻訳するための、具体的な4つのステップと事例についてじっくりと話を聞きました。

なぜ「きれいな言葉」から探し始めると失敗するのか

AAII編集部: 企業理念を作ろうとした時、多くの人が「誠実」「革新」「貢献」といった、きれいな言葉を組み合わせることから始めてしまいがちです。なぜこのアプローチは失敗するのでしょうか。

フジヰ: それは、順番が完全に逆だからです。言葉というのはあくまで「器」であって、中に入れる「中身(事業のDNAや熱量)」が定まっていないのに器だけを立派にしても、誰もその言葉にリアリティを感じません。

辞書に載っているようなきれいな言葉を並べただけの理念は、どの会社の会議室にも貼れるような、いわゆる無難なスローガンになります。それでは、自社の社員の心も、お客様の心も動かすことはできません。強い企業理念を作るためには、外から言葉を借りてくるのではなく、経営者自身の内側にある泥臭い感情から出発し、それを論理的に研ぎ澄ませていくプロセスが絶対に必要です。

ステップ1:経営者の「原体験」と「憤り」を掘り起こす

AAII編集部: では、具体的な作り方のステップを教えてください。何から始めるべきでしょうか。

フジヰ: 最初のステップは、経営者の「原体験」と「憤り」を徹底的に掘り起こすことです。企業理念の種は、必ず創業者の過去や、事業を立ち上げようと思った瞬間の強烈な感情の中にあります。

ホンダ(本田技研工業)の事例を考えてみましょう。彼らの根底には「技術で人を幸せにする」という哲学がありますが、その原点は創業者・本田宗一郎氏の極めて個人的で泥臭い原体験にあります。戦後の混乱期、買い出しで苦労する妻の自転車に、旧陸軍の小さなエンジンを取り付けたのがホンダの始まりです。「目の前の大切な人を、技術の力で楽にしてあげたい」という強烈な原体験があったからこそ、その後の壮大な理念にも血が通っているのです。

AAII編集部: 立派な社会貢献を語る前に、まずは個人の強い動機が不可欠なのですね。

フジヰ: はい。私がクライアントと向き合う際も、いきなり未来の話はしません。「なぜこの業界に入ったのか」「過去にどんな悔しい思いをしたのか」「今の業界の慣習の何に対して腹を立てているのか」といった、熱量や憤りの部分を何時間もかけてヒアリングし、言語化の土台を作ります。

ステップ2:今の社会における「倒すべき課題」を定義する

AAII編集部: 原体験や憤りを掘り起こした後は、どうするのでしょうか。

フジヰ: ステップ2は、その個人的な熱量を、今の社会における「倒すべき課題」へと接続することです。個人の憤りを、社会的な意義(ミッション)へと昇華させるプロセスですね。

ここではAirbnb(エアビーアンドビー)の事例が非常に参考になります。彼らのミッションは「Belong Anywhere(暮らすように旅をする/どこにでも居場所がある世界)」です。この言葉の背景には、既存の画一的で無機質なホテル業界のシステムに対する強烈なアンチテーゼがあります。

AAII編集部: ただの宿泊サービスではなく、社会のどういう状況を変えたいかが明確ですね。

フジヰ: その通りです。ただ「安く泊まれる場所を提供する」のではなく、世界中どこに行っても、まるでそこに暮らしているかのような人間らしい繋がりを取り戻す。無機質な大量消費型の観光システムという「倒すべき課題」を定義したことで、単なるマッチングプラットフォームから、世界中の人々の価値観をアップデートする巨大なブランドへと成長しました。自分たちの事業が、今の社会のどんな歪みを直すのかを定義することが重要です。

ステップ3:100案の検証から「やらないこと」を決める

AAII編集部: 社会的な課題が定義できたら、いよいよ言葉を作っていくのでしょうか。

フジヰ: はい、ここからがクリエイティブの領域であるステップ3です。しかし、天才的なひらめきで一発で素晴らしいコピーが出てくるわけではありません。ステップ2までで固まったコンセプトをベースに、何十、時には100案以上の言葉の切り口や表現の破片を出し合い、徹底的に検証します。

AAII編集部: なぜそこまで大量の案を出す必要があるのですか。

フジヰ: 「やらないこと」を明確に定義するためです。たとえば、私が立ち上げからVMV策定やブランディングを支援しているウエディングプロデュース会社の事例があります。ウエディング業界は「幸せ」「笑顔」「感動」といった、言いたい美しい言葉が山のようにある業界です。しかし、すべてを盛り込もうとすると言葉は濁り、他社との違いがなくなります。

100案を出して代表と議論を重ねる中で、「私たちは、型にはまった大量生産型の結婚式は絶対にやらない。徹底的にお客様の人生に寄り添うプロデュースに特化する」という芯が見えてきました。大量の案を捨てる、つまり「やらないことを決める」という泥臭い消去法のプロセスを経ることで、最後に残った1つの言葉が、圧倒的な強度を持つようになるのです。

ステップ4:詩的な美しさと「現場の判断基準」を両立させる

AAII編集部: そして最後のステップですね。

フジヰ: ステップ4は、最終的な言葉の磨き上げです。ここでは、人の感情を揺さぶる「詩的な美しさ」と、現場の社員が日々の業務で迷わないための「判断基準としての論理性」を両立させます。

私が過去にVMV策定を担当した、大手人材サービスの事例をお話しします。彼らは事業を数千億円規模へさらに成長させるフェーズにあり、「マッチングの効率化」といった機能的な説明文ではなく、組織を一つにする強靭な言葉が必要でした。

AAII編集部: 機能的な言葉を、どう強い言葉に変えたのでしょうか。

フジヰ: 経営陣の熱量と社会課題を掛け合わせ、私たちが倒すべき敵を「旧態依然とした昭和的な労働の価値観」と明確に定義しました。その上で、単なる人材の紹介を超えて、企業と個人の新しい「共創」を生み出すんだ、という意志を言葉に落とし込みました。

この表現には、古い社会構造に対する憤りと、新しい働き方を創るという詩的な熱量が乗っています。そして同時に、現場の営業担当者にとっては「自分のこの提案は、単なる欠員補充で終わっていないか?顧客との共創に繋がっているか?」という、日々の業務における明確な判断基準(論理)になります。経営の戦略と、現場のアクション。その両方を繋ぐ言葉へと翻訳しきって、初めて企業理念の策定プロセスは完了します。

AAII 企業理念・VMV開発支援:泥臭い想いを「勝つ武器」へ翻訳する

企業理念の作り方に、魔法のようなショートカットはありません。経営者の心の中にある泥臭い原体験や憤りと向き合い、社会の課題と接続し、膨大な検証を経て、最後に言葉という器に落とし込む。この緻密で泥臭いプロセスこそが、組織を動かす唯一の方法です。

AAIIでは、テンプレートに当てはめるような理念策定は一切行いません。経営者の皆様が抱える熱量や、社会への問いを徹底的に引き出し、アートディレクターとコピーライターの両方の視点から「やらないこと」を定義します。

そして、人の心を打つクリエイティブな表現力と、事業の判断基準となる論理性を両立させた、あなたの会社にしか語れない言葉へと翻訳します。

飾るための言葉ではなく、事業を勝たせるための最強の武器を共に創り上げましょう。

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